メモと記憶の研究で
わかること
メモと記憶について、よく引用される研究(エビングハウスの忘却曲線、ワーキングメモリ、手書きとタイピングのメモ)を、元の研究が何を測ったのか・その後の研究でどうなったのかとあわせて整理します。研究の結果を、特定のメモアプリの効果として言い切ることはしません。
本文を読むエビングハウスの記録では、1日後に覚え直したときに省けた手間は約3分の1でした(よく見る「1日で74%を忘れる」は6日後の値に近い数字です)。ワーキングメモリの容量は、今はチャンクで3〜5個程度と見積もられています。手書きが有利という2014年の結果は、2021年の直接の再現研究ではっきりしませんでした。いずれも、書き留めて見返すことの意味を考える材料にはなりますが、効果を約束するものではありません。
1. エビングハウスの忘却曲線
ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスは1885年、意味のない音のつづり(無意味つづり)のリストを自分で覚え、時間をおいて覚え直すのにかかった手間から、記憶の残り方を測りました。覚え直しで省けた手間の割合(節約率)は次のとおりです。
- 20分後:58%(覚え直しが必要だった分は42%)
- 1時間後:44%(56%)
- 約9時間後:36%(64%)
- 1日後:34%(66%)
- 2日後:28%(72%)
- 6日後:25%(75%)
- 31日後:21%(79%)
よく見る「1日で74%を忘れる」は、この記録の6日後の値に近い数字です。2015年の再現実験(Murre & Dros)でも、同じような形の曲線が得られています。
ただし、これは無意味つづりを覚え直す手間の測定で、会議の内容のような意味のある情報がどれだけ残るかを直接示すものではありません。
2. ワーキングメモリ
ワーキングメモリ(作業記憶)は、考えごとをしながら情報を一時的に保つはたらきです。Miller(1956)は短期記憶の容量を「7±2」としましたが、その後の研究(Cowan, 2001)では、まとまり(チャンク)で数えると3〜5個程度と見積もられています。
中断した作業のほうが思い出しやすい、という「ツァイガルニク効果」はよく紹介されますが、2025年のメタ分析(Ghibellini & Meier)では、記憶の一般的な優位としては確認されませんでした。確認されたのは、中断した作業を再開しようとする傾向(オフシャンキナ効果)のほうです。
メモとの関係:気になっていることを頭の中に置いたままにせず書き出せば、覚えておく負担を減らせます。書き出したものを見返す仕組みは、メモを習慣にする仕組みづくりで扱っています。
3. 手書きとタイピングのメモ
Mueller & Oppenheimer(2014)は、講義の動画を見ながらノートPCでメモした学生は、手書きの学生より発言をそのまま書き写す傾向が強く、概念を問う問題の成績が低かったと報告しました。ただし、同じ手順で行った直接の再現研究(Urry ほか, 2021)では、手書きの優位ははっきりしませんでした。
どちらの道具でも勧められるのは、聞いたことや読んだことを自分の言葉に言い換えて書くことです。自分で作り出した情報は、読んだだけの情報より覚えやすい(生成効果:Slamecka & Graf, 1978)ことが知られています。
デジタルで書くときの工夫:
- 聞いたことをそのまま書かず、自分の言葉に言い換える
- キーワードだけ書いて、後から自分の解釈を足す
- 見返すときに、短く要約し直す
よくある質問
メモを取ると記憶力が上がるのは本当ですか?
メモを取ることや見返すことが学習に役立つという研究はありますが、効果は内容や見返し方で変わります。手書きがタイピングより覚えやすいという結果(Mueller & Oppenheimer, 2014)は、同じ手順の再現研究(Urry ほか, 2021)でははっきりしませんでした。
エビングハウスの忘却曲線とメモの関係は?
エビングハウス(1885年)の記録では、1日後に覚え直したとき、最初に覚えたときと比べて省けた手間は約3分の1(34%)でした(無意味つづりでの測定。よく見る「1日で74%を忘れる」は6日後の値に近い数字です)。書き留めておけば覚えておく必要がなくなり、見返すことは思い出す練習にもなります。
デジタルメモと手書きメモ、脳への効果の違いは?
手書きが有利という研究と、差がはっきりしないという再現研究があります。デジタルは検索しやすく、手書きは図や矢印を書きやすい、という道具の違いで使い分けるのが現実的です。
メモを取るとき、何が起きているか
メモを取るには、何が大事かを選び、短くまとめる必要があります。意味を考えて処理した情報ほど記憶に残りやすいことは、処理水準の研究(Craik & Lockhart, 1972)や生成効果の研究(Slamecka & Graf, 1978)で示されています。そのまま書き写すだけでは、この効果は得にくくなります。
Paivio(1986)の二重符号化理論は、言葉とイメージの両方で覚えた情報は思い出しやすいと考えます。メモに簡単な図や矢印を添えるのは、この考え方に沿った工夫です。
Andrade(2010)の実験では、退屈な電話のメッセージを聞きながら図形を塗りつぶした人は、何もしなかった人より内容を多く思い出しました(参加者40人、思い出した数は平均7.5と5.8)。ぼんやりしにくくなったためと著者は考えていますが、小規模な1つの実験で、脳の中で何が起きたかを測ったものではありません。
デジタルのメモで覚えやすくする3つのコツ
ノートPCのメモで成績が低かった研究(Mueller & Oppenheimer, 2014)では、発言をそのまま書き写す傾向が理由として挙げられています。キーボードは速く打てるぶん、聞いたことをそのまま打ち込みがちです。
聞いた情報を自分の言葉に言い換えてから書きましょう。文章ではなくキーワードと矢印で関係を示す、自分なりの略語を使う、「つまり〜ということ」と要約してから書く、といった方法があります。
一度にまとめて見返すより、時間をおいて何度か見返すほうが長く覚えていられることは、多くの研究で示されています(間隔効果。Cepeda ほか, 2006 のメタ分析)。
Obsidian連携シンプルメモで送ったメモは受信箱に届くので、翌日にメールを確認するときが見返しの機会になります。大事なメモに印を付けて週末にまとめて見返せば、1週間後の見返しにもなります。
ただ繰り返す(維持リハーサル)より、すでに知っていることと結びつける(精緻化リハーサル)ほうが記憶に残りやすいとされています。電話番号を何度も唱えてもすぐ忘れるのに、語呂合わせにすると覚えられるのはこの例です。
見返すときに「なぜ大事か」「何とつながるか」「どう使えるか」を1〜2行足してみましょう。Captio式なら、過去のメモをメールで見つけて、返信の形で書き足すのが手軽です。Craik & Lockhart(1972)の処理水準の考え方のとおり、意味を考えて処理した情報ほど残りやすくなります。
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短期記憶の研究(Peterson & Peterson, 1959)では、頭の中で繰り返せない状態にすると、覚えたばかりの文字の並びは十数秒で大きく思い出せなくなりました。会議中のひらめきや通勤中のアイデアも、「あとでメモしよう」と先延ばしにすると抜け落ちやすくなります。すぐ書ける場所(ホーム画面の1ページ目のアプリやウィジェットなど)を決めておき、思いついたらその場で書き留めましょう。完璧な文章である必要はありません。キーワードだけでも、後から思い出すきっかけになります。
自分で作り出した情報は、読んだだけの情報より覚えやすいことが知られています(生成効果)。本の一節をメモするときも、そのまま写すだけでなく「→つまり○○ということ」と自分の解釈を一言添えてみてください。この小さな手間で、メモが記録から学びの道具に変わります。
終わっていないことを頭の中に抱えたままにせず、書き出して1か所に集めましょう。GTD(Getting Things Done)の「収集」と同じ考え方です。「中断した作業ほど記憶に残る」という説(ツァイガルニク効果)は最近のメタ分析では支持されませんでしたが、中断した作業を再開しようとする傾向は確認されています。書き出しておけば、再開すべきことを見落としにくくなります。朝の書き出しについては朝のメモ習慣で扱っています。
参考文献
- • Ebbinghaus, H. (1885). Über das Gedächtnis: Untersuchungen zur experimentellen Psychologie. Duncker & Humblot.
- • Miller, G. A. (1956). The magical number seven, plus or minus two: Some limits on our capacity for processing information. Psychological Review, 63(2), 81–97. DOI: 10.1037/h0043158
- • Mueller, P. A., & Oppenheimer, D. M. (2014). The pen is mightier than the keyboard: Advantages of longhand over laptop note taking. Psychological Science, 25(6), 1159–1168. DOI: 10.1177/0956797614524581
- • Murre, J. M. J., & Dros, J. (2015). Replication and analysis of Ebbinghaus' forgetting curve. PLOS ONE, 10(7), e0120644. DOI: 10.1371/journal.pone.0120644
- • Peterson, L. R., & Peterson, M. J. (1959). Short-term retention of individual verbal items. Journal of Experimental Psychology, 58(3), 193–198. DOI: 10.1037/h0049234
- • Cowan, N. (2001). The magical number 4 in short-term memory: A reconsideration of mental storage capacity. Behavioral and Brain Sciences, 24(1), 87–114. DOI: 10.1017/S0140525X01003922
- • Ghibellini, R., & Meier, B. (2025). Interruption, recall and resumption: A meta-analysis of the Zeigarnik and Ovsiankina effects. Humanities and Social Sciences Communications, 12, 962. DOI: 10.1057/s41599-025-05000-w
- • Urry, H. L., et al. (2021). Don't ditch the laptop just yet: A direct replication of Mueller and Oppenheimer's (2014) Study 1 plus mini meta-analyses across similar studies. Psychological Science, 32(3), 326–339. DOI: 10.1177/0956797620965541
- • Slamecka, N. J., & Graf, P. (1978). The generation effect: Delineation of a phenomenon. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory, 4(6), 592–604. DOI: 10.1037/0278-7393.4.6.592
- • Cepeda, N. J., Pashler, H., Vul, E., Wixted, J. T., & Rohrer, D. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin, 132(3), 354–380. DOI: 10.1037/0033-2909.132.3.354
- • Paivio, A. (1986). Mental Representations: A Dual Coding Approach. Oxford University Press.
- • Andrade, J. (2010). What does doodling do? Applied Cognitive Psychology, 24(1), 100–106. DOI: 10.1002/acp.1561
- • Craik, F. I. M., & Lockhart, R. S. (1972). Levels of processing: A framework for memory research. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 11(6), 671–684. DOI: 10.1016/S0022-5371(72)80001-X